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自己啓発本という自由工作キット

本棚で何年も熟成させていた、塩野七生さんの『日本人へ リーダー編』を読んだ。

古代ローマの豊富な知識を元に、塩野さんが現代の政治を鮮やかに読み解く。
少し前に書かれた書籍だが、ふんだんに詰め込まれた日本への提言は色褪せない。

言葉を非常に大事にしている方で、「書く内容に適した文体が存在する」という記述に共感した。使われる単語が一つひとつが美しい。

最近は会社の本棚に置かれた自己啓発本を読み漁っていたので、塩野さんの書く学術的な文章は新鮮で、色々と考察する余地を与えてくれた。

一方で、最近読んでいた様々な自己啓発本は、単純明快に行動指針を示唆してくれた。
それは裏返せば、著者の意図する通りの思考をある程度なぞらされているということだ。
どこか、自由工作キットに似ている。

もし、夏休みの自由工作でイライラ棒(古いかな)を作りたいと子供が考えた場合、自分で針金や豆電球などを集めるよりも、イライラ棒キットを買った方が、品質が高いものを手早く作ることができる。

でも、きっとその子は自由工作キットの完成形以上のものを作ることはしないし、いざ夏休みが明けて学校へ行くと、似たようなイライラ棒がごろごろと転がっているに違いない。

同じ自己啓発本を読めば、似たような思考を持つ人々が量産される。ひとしきり自己啓発本を読み漁った後、ふとそんな気がしてしまった。

一方で、明確に人を動かすようなメッセージが打ち出されていない本からは、何も得られないかもしれないが、もしかすると筆者が意図した以上のことを得られるかもしれない。
読者に「こうせよ」と迫らないことが、読者の自由な発想や行動を促し、その結果は十人十色になるはずだ。

けれども、私はアンチ自己啓発本派というわけではない。
処方薬として上手く使えば、大きな効果を発揮することもある。

昔バイトをしていた飲食店に、とにかく人と対立するのが得意な先輩がいた。もちろん、あまり周りから好かれてはいなかった。
常に眉間にしわを寄せて、小言を繰り返すような人だった。

ところが、ある日出勤すると、これ以上にないほどの爽やかな笑顔を向けられ、度肝を抜かれた。バイト中も、なんやかんやと優しくアドバイスをしてくれる。
なんだかんだもう2年ほどの付き合いだったが、こんなの初めて!状態だった。

「彼、どうかしちゃったの?」と他のバイトの子に聞いてみたところ、最近自己啓発本にはまっているらしい。なにやら、人に優しくすると自分に幸せが返ってくるというような内容の本だという。

そこまで素直にメッセージを受け取れるなら、人生において自己啓発本は非常に有用となり得るのではないか。

日本人へ リーダー篇 (文春新書)

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